データドリブン経営ブログ
フェアデータエコノミーをどう活用するか
Frederik De Breuck
富士通ベルギーCDO/CTO、Fujitsu Global Fujitsu Track and Trust Center長
Colm McDaid
富士通インターリージョナルエンゲージメント 環境担当リーダー
「フェアデータエコノミー(Fair data economy)」について、欧州では耳にする機会が増えてきています。この記事では、エシカル消費を考慮したサービスやデータに基づく製品に焦点を当てた、フィンランドの政府関連機関SITRAが提唱する新たなアプローチについてご紹介します。SITRAによると、フェアとは、個人の権利が守られ、利害関係者全員のニーズが考慮されることを意味します。
フェアデータエコノミーでは、データのコントロールが極めて重要です。それは必ずしも誰がデータを保管するかという問題ではなく、誰がデータの使用許可を与えるかという問題です。例えば、個人に関するデータであれば、データの使用に対する「主権」はその個人本人にあるべきです。この記事では、データ所有権に対するこの新しい考え方を普及させる中で、ブロックチェーンなどの分散型台帳技術(DLT:Distributed Ledger Technology)が果たす役割について探っていきます。
データに対する主権の所在について
昨今、ブロックチェーンをはじめとするDLTの重要性が高まっています。それは、自己主権型アイデンティティー(SSI)を実現する技術です。DLTを利用すれば、データに対し実際にどのような処理が行われているかを可視化することができ、誰が、いつ、どんな目的でデータにアクセスできるようにするかをコントロールすることもできます。例えば医療では、SSIによって、患者が承認した研究に対し自分のカルテの特定情報にアクセスすることを許可できるようになります。ただし、あくまで関連データのみで、居酒屋で免許証を提示して年齢を確認する際に、住所も見えてしまうのとは違います。
将来的にDLTが普及していけば、データの悪用をめぐる消費者の不安は軽減されていきます。ブロックチェーンなどのテクノロジーを採用することで、企業はデータ仲介業者として他者に公開するデータのコントロールや検証が可能になります。
一方、昨今のフェアデータのポリシーへの要求の高まりに企業が対応していくには、非常に明確なデータ戦略を実行していく必要があります。この結果、世界中のあらゆる規模の企業において、データのコントロールの重要性はますます高まってきています。フェアデータエコノミーでは、データ所有者が第三者と共有されるデータについてコントロールする権限を維持しながら、企業はより適切に、フェアで持続可能な意思決定を下すことが求められます。
ケイパビリティとカルチャー
必要な改革を行うには、デジタルリーダー(組織の最高データ責任者、最高デジタル責任者、最高情報責任者、最高技術責任者)が「技術的なケイパビリティ」と「カルチャー」という重要な領域にフォーカスしなければなりません。
「技術的なケイパビリティ」には、レガシーシステムであれ、最新化されたビジネスアプリケーションであれ、ツールを適切に使いこなし、組織を取り巻く膨大なデータからインサイトを引き出すケイパビリティが必要です。
データ全体が一貫性をもってセキュリティ、プライバシー、ガバナンスといった企業経営の必須要件に対応しなければなりません。
後者の「カルチャー」には、組織が「データドリブン」の価値観をあらゆるレベルでしっかりと育成することが求められます。データドリブンのカルチャーは、考え方とスキルセットの両方で構成されます。データを活用し、データ品質やその共有方法などをしっかり管理するには、適切なトレーニングとケイパビリティが不可欠なのです。
フェアデータエコノミーへの移行を加速
富士通は、フェアデータエコノミーへの移行期における、徹底したデータドリブン化によるデジタルビジネス戦略を支えるデータ活用推進のポイントを3つ抽出しました。
1つ目は安定した柔軟なデータ戦略です。運用の機敏性と効率性の向上が求められる領域においては、課題を解決・ビジネス変革を実現するために、デジタル技術によって増大し続けるデータプールを統合していきます。
富士通の最近の調査で、デジタルリーダーの4分の3(76%)が「コロナ禍を受けて組織におけるデータ戦略改善の緊急度が上がった」と考えていることがわかりました。しかし必要なことは動き出すことです。また半数近く(46%)は、「データへのアクセスが限られていたため、組織が過去1年間の目標を達成できなかった」とも回答しています。ビジネスモデルや運用モデルに明確に関連付けることなくデータ戦略を変更することは、現在の市場環境では失敗する可能性が高いでしょう。
2つ目のポイントは、データへの投資拡大ニーズです。「データをリモートから活用する環境を構築するための投資が不足している」と回答したビジネスリーダーのうち、およそ3分の1(30%)が「実際に自社の業績に影響があった」と考えています。この結果から、「人材」、「プロセス」、「ツールとシステム」の3つの領域への投資を拡大することが、データとインサイトを適切なタイミングで得られるようにするために非常に重要です。これらの投資は、まずいち早く成功を収めるために有望なユースケースに集中し、ビジネス課題を解消するためのパートナーとエコシステムを選定できるようにします。
ブロックチェーンとデータサプライチェーン
3つ目のポイントは、データサプライチェーンです。多くの組織では、データの利用を民主化しようとしています。データを必要とするすべての人が利用できるようにすることで、各人が状況変化に迅速に対応できるようになります。しかし、このデータサプライチェーンには高いレジリエンス(変化への対応力)が必要です。今日、意思決定につながるインサイトを引き出すためには、さまざまなビジネス領域からデータを取得しなければなりません。組織や部署内のより多くの個人が、より広範なエコシステムからのデータにアクセスし利用する必要があるため、特に当てはまります。
データサプライチェーンは組織の壁を超えて、外部のパートナーやサプライヤー、お客様まで含まれるため、ブロックチェーンがレジリエンスと透明性の確保するための重要なソリューションとなります。DLTは、データやそのデータにアクセスできる人物、そのデータがいつ使用されるかを追跡できる透明性の高い方法です。分散型台帳は改ざんが極めて困難であり、複数の利害関係者から成るエコシステムでのデータ使用状況が関係者同士で監視できるため、急速に標準になりつつあります。
ただし、企業にとってブロックチェーンだけですべてが解決されるわけではないので、そこは注意が必要です。ブロックチェーンはテクノロジー、人、プロセスを含む他の必要な対策と組み合わせて利用される必要があり、そのベースとなるテクノロジーといえます。その結果、誰もが適切なデータにだけアクセスすることが可能になり、人々はツールやガバナンスを利用することで自分と関連するデータにだけアクセスし、そのプロセスにおける機密情報を守れるようになるのです。
詳細については、下記関連リンク「Fujitsu The Great Data Acceleration」よりご覧ください。当社が提唱する「The Great Data Acceleration」について詳しく説明しています。
*この記事は「How to take advantage of the fair data economy」の抄訳です。
著者プロフィール
Frederik De Breuck
富士通ベルギー CDO(最高デジタル責任者)/CTO(最高技術責任者)、Fujitsu Global Fujitsu Track and Trust Center長
富士通ベルギーのCDO/CTOとして、従来型ビジネスをデジタル化することで成長と戦略的更新をより促進させる業務の総責任者の役割を果たしている。Fujitsu GlobalのFujitsu Track and Trust Centerの管理・運営も行っており、ブロックチェーン方式の分散型台帳ソリューションの開発と、スピーディーに企業に実装するためのイノベーティブな方法論確立にフォーカスしている。
著者プロフィール
Colm McDaid
富士通インターリージョナルエンゲージメント 環境担当リーダー
技術機関での環境持続可能性に関する多様な経歴を持つ経験豊富な専門家。国際ビジネスの物流マネージャーとしての過去の経験で培ったサプライチェーンの知識を持ち複数の情報技術部門に20年以上従事、多様なテクノロジーやサービスにおける高度な経験を有す。持続可能性、環境マネジメント、環境コンプライアンスおよび影響低減に関する造詣も深い。