気象庁 様

線状降水帯をより迅速、正確に予測し、防災や安全につなげる

気象庁は、長期的な方針のもとに数値予報技術の拡充に力を入れています。
2018年に「2030年に向けた数値予報技術開発重点計画」を策定、四つの重点目標を掲げ、それらの達成のため、具体的な施策を進めています。その一つが富士通のPRIMEHPC FX1000(以下 FX1000)の導入です。これにより、線状降水帯をはじめとする気象現象をより正確に予測、早い段階で情報を発信し、防災や安全につなげることを目指しています。

課題

  • 気象庁の長期戦略で、線状降水帯の予測精度向上、情報発信の迅速化が急務
  • 安定的な気象予報のため、HPC(High Performance Computing)に高い可用性が求められる

ソリューション

  • ハードウェア:PRIMEHPC FX1000(24ラック)/館林データセンターで運用
  • OS:Red Hat Enterprise Linux
  • HPCミドルウェア:Technical Computing Suite(富士通)

導入効果

  • 新たなHPC導入により、予測精度の向上、情報発信の迅速化をはかる
  • HPCシステムを同一構成で、全体を二重化し、館林データセンターで管理することで、高い可用性、安全性を実現
世界最高峰のスーパーコンピュータ「富岳」と同じCPUを搭載したFX1000が、これからの気象予報や防災に大きな役割を果たそうとしています。

予測精度をFX1000で
2倍に

  • 設立: 1871
  • 長官: 大林 正典 氏
  • 人員数: 5,000 名
  • 所在地: 東京都 港区 虎ノ門 3-6-9
  • Customer's website

お客様について

天気予報、地震・火山予知、津波などの情報発信、これらについての観測、研究を行なっている。また気象情報やデータの利活用促進にも取り組む。

左から、気象庁 情報基盤部情報通信基盤課 千田 雅史 氏、気象庁 情報基盤部数値予報課長 石田 純一 氏、気象庁 情報基盤部情報政策課 横井 信太郎 氏.
左から、気象庁 情報基盤部情報通信基盤課 千田 雅史 氏、気象庁 情報基盤部数値予報課長 石田 純一 氏、気象庁 情報基盤部情報政策課 横井 信太郎 氏

未知の部分が多い線状降水帯のメカニズム

線状降水帯をはじめとする豪雨は、毎年のように大きな災害をもたらし、予報精度の向上が急務となっています。気象庁の石田純一氏(情報基盤部 数値予報課長)は、「線状降水帯がどのように発生し、維持されるのかなど、そのメカニズムはまだよくわかっていません」と語ります。当然、線状降水帯の構造を再現できるような数値モデルもまだありません。にも関わらず、明るい日中のうちに避難できるよう、スピーディな予測が求められています。「そこで予測精度向上のための技術開発を加速するため、新たにHPCを導入することに決めました」(石田氏)。

他をしのぐ局地モデルの実行速度

FX1000を選択した理由の第一は基本性能の高さです。「線状降水帯の予測において今後根幹となるのは数値予報モデルの一つ、局地モデルです。水平格子間隔2kmで、10時間先までの予測計算を行うことで数時間先の局地的な大雨の予測に利用されています。HPCの検討に当たってもベンチマークを定め、局地モデルでの実行速度を評価しました。その結果はFX1000が優れていました」(石田氏)。

実績が示す高い技術力

富士通の技術力も高く評価されました。気象庁の情報基盤部が富士通のHPC製品を導入するのは今回が初めてですが、富士通はこれまで、気象庁のアメダス(地域気象観測システム)やアデス(気象情報伝送処理システム)、気象研究所のスーパーコンピュータなどを手がけてきました。「これまでの実績から、富士通の技術への信頼が築かれていました」と千田雅史氏(情報基盤部情報通信基盤課)は語ります。

二重化により安定的、継続的な運用を実現

気象予報は24時間365日、社会に欠かせない活動であり、途切れることは許されません。従って気象予報システムは、決められた時間に決められたサービスを実行する業務系システムである必要があります。例えば、ある時刻に観測を行い、そこで得られたデータに基づいて、一定時間後には、気象予報として発表しなくてはなりません。そこで気象庁はFX1000を丸ごと二重化し、富士通の館林データセンターで管理しています。「常に、連綿と続けていくのが気象予報業務です。FX1000についてもこのことを踏まえて運用を考える必要がありました」と横井信太郎氏(情報基盤部情報政策課)は語ります。

予測精度のさらなる向上を目指す

FX1000の本格的な稼働はこれからですが、他の観測技術の発展などとも併せて、将来に向け線状降水帯の予測精度を高めていく予定です。具体的には、令和5年度末に10時間先を18時間先の予測計算に、令和7年度末に水平格子間隔2kmを1kmにすることを目指しています」(石田氏)。このほか、線状降水帯の不確実性をとらえるため、条件を変化させた何種類かの局地モデルを走らせ、その誤差を考慮し、確率的に予測する「局地アンサンブル予報」の運用を計画しています。また初期値の精度を高めるため、局地モデルやメソモデルに、マイクロ波放射計、アメダス湿度計、二重偏波ドップラーレーダーなどの観測データを合わせることもしていきます。「令和6年には、明るいうちから早めに避難できるよう、線状降水帯による大雨の可能性を半日程度前から呼びかける対象地域を県単位に絞り込み、また、令和8年には、迫りくる危険から直ちに避難できるよう、線状降水帯の発生を2~3時間前から予測することを目標にしています」(石田氏)。

気象が社会・経済にこれまで以上に大きな影響を与えつつある今、富士通のコンピューティングが気象予報に貢献できる場面はますます多くなるでしょう。